今回は外山滋比古氏の著書、「思考の整理学」をご紹介します。
1983年に刊行され、1986年に文庫化されて以来ロングセラーであるこの本は、東大・京大生協の書籍売上ランキングで度々1位となるなど、若者からも支持される名著です。
自分の頭で自由に伸び伸びと考える方法を紹介するこの本は、そこまで難しい言葉で書かれておらず、非常に読みやすい本になっています。
また、230ページほどと文庫本の中でも薄い方なので、気軽に読めてしまうと思います。
人生であまり教わる機会のない、「考える」という行為についての知見が広がる本になっています。
1 この本を手に取った理由
興味:「考える」コツが知りたかった
この本は、社会人になりたての新入社員の頃に読みました。
学生の頃は、自分で探さなくても課題が与えられ、その課題を解決できるような答えを提示さえすれば、試験に合格することができます。
しかし、社会人になってからは、課題も自分で発見しなければならないし、答えが決まっていないものも多いので、自ら考えて行動していく必要があるでしょう。
社会人になりたての頃でしたが、学生時代のアルバイトやインターンの経験から、このような学生と社会人の違いを意識していました。
意識していただけで、「考える」ことが十分にできていたわけではありません。
学生の時よりも自ら考えて行動することが求められる社会人として働いていく中で、「考える」ということを今まで学んでこなかったと思い、「考える」をテーマにしたこの本を購入して勉強してみようと思いました。
2 本のまとめ
筆者のメッセージ
本の構成は以下の通り、Ⅰ章からⅥ章まで分かれています。
- Ⅰ:これからの時代における「思考」の必要性
- Ⅱ:思考を創り上げる過程について
- Ⅲ:Ⅱ章の具体的な方法
- Ⅳ:思考の整理方法
- Ⅴ:Ⅳ章の具体的な方法
- Ⅵ:思考の大切さ
筆者は、ますますAIをはじめとした技術革新が進む時代を生きる人たちに向け、「考える」技術や方法を教えようとしている、、、わけではないと述べています。
本の中身を見てみると、実際の思考のプロセスを紹介していますが、それはあくまで紹介であり、この方法を読者に実践してもらうことを望んでいるわけではありません。
あくまで筆者の経験や考えを共有している感じです。
「自分がどういう考え方をしているのかを見つめるきっかけ」、「そういう考えがあるのかという刺激」にしてほしいということです。
筆者にとっては、こういった本を書く中でのアウトプットも「考える」ことの一部分なのかもしれません。
3 読んで良かったと思う部分
本書の中で特に読んで良かったと思う部分についてご紹介します。
1 グライダー人間と飛行機人間の違い
1つ目は、グライダー人間と飛行機人間の違いについてです。
グライダーは、動力がなく自力では飛ぶことができない航空機ですが、それに対し飛行機には動力があり、自力で飛ぶことができる航空機です。
筆者はこれを人間にも当てはめ、「グライダー人間」と「飛行機人間」としてこの2つの違いを説明しています。
グライダー人間 | 飛行機人間 | |
---|---|---|
学校の教育内容 | ◎ | △ |
学びへの態度 | 受動的 | 自発的 |
知識を | 得るだけ | 整理して発見に繋げる |
グライダー人間は、受動的に知識を得ることに特化した、今の日本の学校教育の産物とも言えるような特徴を持つ人間のことです。
それに対し飛行機人間は、自発的に学び、物事を発見・発明できるような創造力豊かな人間のことです。
グライダー人間は、学校での成績が良い人も多く含まれると言います。なぜなら、日本の学校での教育は、与えられた知識を言われた通りに覚えて、それをテストで解答すれば良い成績がもらえる仕組みだからです。
今まではグライダー人間でも活躍できる社会だったかもしれませんが、近年ではコンピューターという優秀なグライダーが出てきたため、「グライダー能力」だけでは、太刀打ちできない社会となってきました。
筆者は、グライダー能力は必要だとしつつも、いかに創造力豊かな飛行機能力を身につけるかを、日本の学校・社会は考える必要があると述べています。
この飛行機能力は、まさに社会人になってから求められる能力ですし、私が「考える」コツを学ばなくてはいけないと思った背景が説明されていると感じました。
2 触媒の概念
2つ目は、「触媒」の概念です。
化学の範囲での「触媒」と言うと、一般に以下の通り説明されます。
○触媒(広辞苑)
・化学反応に際し、反応物質以外のもので、それ自身は化学変化を受けず、しかも反応速度を変化させる物質
筆者は、「考える」中でもこの「触媒」のような存在が必要であると述べています。
思考のプロセスにおいては、自分が知っていること(既存知)と、もう一つの既存知を結びつけることとなります。
その既存知同士を結びつける、個人の価値観や人生経験などその人特有の個性があるからこそ、新しい思考や発見が生み出されていくのです。
この本では、この「触媒」といった例以外にも、思考が生み出されるプロセスにおける仕組みや仕掛けを多数紹介しており、「なるほど」と思う他に、自分でも実践してみたいと思えるような内容が紹介されています。
3 忘れることの重要性
3つ目は、忘れることの重要性です。
これも、思考が生み出されるプロセスにおいては必要なことであると紹介されています。
今までの教育は、授業内容を忘れていないか確認するようなテストを実施するように、「忘れる」ことを「悪」とみなす傾向にありました。
しかしコンピューターの出現により、忘れずに覚えているという点においては、人間がコンピューターに対して優位に立つことは無くなってしまい、「忘れない」という点がそこまで重要では無くなってきています。
「忘れない」だけだったらコンピューターの方が確実に上です。
だからこそ上でも述べたように、創造的思考ができる飛行機人間の重要性が高まっています。
創造的思考を行うためには、必要な情報を整理し、うまく取り出していく必要があります。
情報過多な現代で、いつでも必要な情報を取り出せるようにするためには、不必要な情報を忘れていかないと、脳がパンクしてしまいますよね。
そのため筆者は、この本で忘れることの重要性を述べ、適度に物事を忘れられるような方法を紹介してくれています。
人間は忘れるからこそ、創造的思考ができるという点は、今まで考えたことがなかったので新鮮に感じました。
4 考えたこと
今回は、「思考の整理学」をご紹介しました。
読んでいても筆者の押し付けがましさなどを感じることなく、純粋に読み物として面白かったです。
本の中で読者に自分の技術や方法を押し付けない部分も、学生からの人気を得ている部分なのかもしれません。
なかなか「考える」ことについて見つめる機会は少ないと思いますので、気になった方は読んでみると、視野がとても広がるのではないかと感じました。
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